OMフォーラム
シリーズ「住まいの材料と化学物質」
第1回 シンポジウム
「住まいの中の化学物質を測ってみると……」


講演:花井義道先生(横浜国立大学環境科学研究センター)
対論:半田雅俊氏(家づくりの会)他OM研究所メンバー

非常に長い講演と討論です。



注1) 文章中に出てくる図版は別でUPしてありますので、そちらと一緒にご覧下さい。
注2)このシンポジウム後に花井先生が新たに研究され、判明したこと
があります。一応参考まで下に列記しておきます。

(新たな研究結果)
1.トルエン・キシレンを主成分とする塗料を在住者のいる家で使うと
  被害が大きい。以後化学物質過敏症になりやすい。
2.無規格の合板にホルムアルデヒドの発散量の多いものがあった。
3.壁紙用のりに防カビ剤としてホルマリンが含まれている。
  ノンホルマリンと表示してある糊にアセトアルデヒドが含まれている製品があった。  

OMフォーラム発足の趣旨
野沢 正光

今日はOMフォーラムの実質的な一番最初の寄り合いということにな
りますが、今後どういうふうにこのフォーラムを運営していきたいと思
っているか等について、散漫ですが、ざっとお話をさせていただきたいと思います。
かれこれ10年近くになると思いますが、OMソーラー協会というもの
とOM研究所というものが独立した二つの機関として、一義的にはパッ
シブソーラーシステムを日本の中で普及できないかということをテーマにして始められたわけです。
一方で、われわれのメンバーも含めて外部の建築家の方々も、こうい
う考え方に賛同してくださる方がたくさん出て、大勢の建築家の方の問
題提起といいますか、参加といいますか、そういうことがOM研究所の周辺でいろいろと起きてきました。
われわれは、そういう格好でなるべく技術なり考えなりをオープンに
しながら、われわれの考えることを深めていったり、あるいはそれを楽
しみにしたりしていきたいと今まで考えてきたわけですが、OMソーラ
ーハウスというものが持っている技術的な、たとえばコンピュータ・シ
ミュレーション等の公開を含めて、何らかの格好でわれわれが考えたり
皆さんが考えていらっしゃること等を交換する、あるいはオーバーに言
えば、社会的なわれわれの仕事の任務のようなものを確認し合うような
場所をつくりたいというのがありました。それで「OMフォーラム」と
いう名前を付けて、去年から準備を始めて、今年の8月から正式に皆さ
んに参加を呼び掛けし、OMフォーラムのメンバーになっていただくと
いうような仕掛けを動き出させたということになります。

われわれの発想の経緯ということで言いますと、まずパッシブソーラ
ー技術に伴って、高断熱・高気密住宅についての勉強を始めた。
その次にその技術を一つひとつ詰めていく中で、技術そのものはある
程度見当がついた。それはわれわれが見当をつけたというよりも、日本
のある地域、たとえば北海道等ですでにトライアルがいろいろあったわ
けですから、それについてわれわれが知ることができたということかもしれません。
その問題の次に、当然のように高断熱・高気密住宅というのがはたし
て良いのだろうか、そんな閉鎖的な室内環境というのはどうなんだろう
かみたいなことが、室内換気とか室内気候というような言い方をわれわれに考えさせるような状況があったと思います。
そうやってわれわれは、たくさんの家を建てる日本独特の風土の中で
われわれが建てている建築についていろいろ考えてきたわけですが、10
年近く前から外国等では、あるいは日本でも、一般的に日本語では「化
学物質過敏症」という言い方がされていると思うのですが、たぶん高断
熱・高気密等、あるいは換気の悪い住宅であること等が原因になって、
新築住宅のハウスシックといわれるような症状がかなり顕著に現われ、
日本でもこの問題がここ数年非常に大きなテーマになっているし、実際
にこれから住宅を建てようという一般の方の大変気にするところの一つ
にいつの間にかなっているということがあると思います。
このフォーラムはこの問題だけを取り上げるというわけではないので
すが、われわれの身近にあって、ある意味では非常に深刻な問題にも見
える、あるいは住宅を建てたいと言っている人たちが非常に大きな問題
として認識しているこの問題から、このフォーラムを始めていくということにしたいと考えたわけです。

ついでながら、この問題についてはたぶん新聞等でも大きな問題とし
て特集が組まれたりしていますし、たとえば建築家だけでは片付かず、
お医者さんあるいは大学の花井先生のような研究者、いろいろな方々が
いろいろな形でこの問題に関わるという格好になりますので、考え方と
しては、建築の問題を多面的に考えてみる一つのフィールドとして、ネ
ガティブにばかり捉えずにこの問題から建築を縦にも横にも解いていく
ことの一つのきっかけになるのではないかという気もして、こういう企画を考えたわけです。
OM研究所のメンバーとしてこの企画に主に興味を持ち、フォーラム
の中のシンポジウムを開こうという格好で、主体的にいろいろとやって
くださった長谷川さんから、今日のフォーラムの中身について少しお話
をしていただいて、そのあと先生方からお話をいただくということにいたします。



それではどうもありがとうございました。
以下を おたのしみ下さい(終)
                        速記:勝 千鶴子
                        著作権:OM研究所

OMフォーラム発足の趣旨
野沢 正光

今日はOMフォーラムの実質的な一番最初の寄り合いということにな
りますが、今後どういうふうにこのフォーラムを運営していきたいと思
っているか等について、散漫ですが、ざっとお話をさせていただきたい
と思います。
かれこれ10年近くになると思いますが、OMソーラー協会というもの
とOM研究所というものが独立した二つの機関として、一義的にはパッ
シブソーラーシステムを日本の中で普及できないかということをテーマ
にして始められたわけです。
一方で、われわれのメンバーも含めて外部の建築家の方々も、こうい
う考え方に賛同してくださる方がたくさん出て、大勢の建築家の方の問
題提起といいますか、参加といいますか、そういうことがOM研究所の
周辺でいろいろと起きてきました。
われわれは、そういう格好でなるべく技術なり考えなりをオープンに
しながら、われわれの考えることを深めていったり、あるいはそれを楽
しみにしたりしていきたいと今まで考えてきたわけですが、OMソーラ
ーハウスというものが持っている技術的な、たとえばコンピュータ・シ
ミュレーション等の公開を含めて、何らかの格好でわれわれが考えたり
皆さんが考えていらっしゃること等を交換する、あるいはオーバーに言
えば、社会的なわれわれの仕事の任務のようなものを確認し合うような
場所をつくりたいというのがありました。それで「OMフォーラム」と
いう名前を付けて、去年から準備を始めて、今年の8月から正式に皆さ
んに参加を呼び掛けし、OMフォーラムのメンバーになっていただくと
いうような仕掛けを動き出させたということになります。
われわれの発想の経緯ということで言いますと、まずパッシブソーラ
ー技術に伴って、高断熱・高気密住宅についての勉強を始めた。
その次にその技術を一つひとつ詰めていく中で、技術そのものはある
程度見当がついた。それはわれわれが見当をつけたというよりも、日本
のある地域、たとえば北海道等ですでにトライアルがいろいろあったわ
けですから、それについてわれわれが知ることができたということかも
しれません。
その問題の次に、当然のように高断熱・高気密住宅というのがはたし
て良いのだろうか、そんな閉鎖的な室内環境というのはどうなんだろう
かみたいなことが、室内換気とか室内気候というような言い方をわれわ
れに考えさせるような状況があったと思います。
そうやってわれわれは、たくさんの家を建てる日本独特の風土の中で
われわれが建てている建築についていろいろ考えてきたわけですが、10
年近く前から外国等では、あるいは日本でも、一般的に日本語では「化
学物質過敏症」という言い方がされていると思うのですが、たぶん高断
熱・高気密等、あるいは換気の悪い住宅であること等が原因になって、
新築住宅のハウスシックといわれるような症状がかなり顕著に現われ、
日本でもこの問題がここ数年非常に大きなテーマになっているし、実際
にこれから住宅を建てようという一般の方の大変気にするところの一つ
にいつの間にかなっているということがあると思います。
このフォーラムはこの問題だけを取り上げるというわけではないので
すが、われわれの身近にあって、ある意味では非常に深刻な問題にも見
える、あるいは住宅を建てたいと言っている人たちが非常に大きな問題
として認識しているこの問題から、このフォーラムを始めていくという
ことにしたいと考えたわけです。
ついでながら、この問題についてはたぶん新聞等でも大きな問題とし
て特集が組まれたりしていますし、たとえば建築家だけでは片付かず、
お医者さんあるいは大学の花井先生のような研究者、いろいろな方々が
いろいろな形でこの問題に関わるという格好になりますので、考え方と
しては、建築の問題を多面的に考えてみる一つのフィールドとして、ネ
ガティブにばかり捉えずにこの問題から建築を縦にも横にも解いていく
ことの一つのきっかけになるのではないかという気もして、こういう企
画を考えたわけです。
OM研究所のメンバーとしてこの企画に主に興味を持ち、フォーラム
の中のシンポジウムを開こうという格好で、主体的にいろいろとやって
くださった長谷川さんから、今日のフォーラムの中身について少しお話
をしていただいて、そのあと先生方からお話をいただくということにい
たします。
テーマの説明
長谷川 敬

皆さん、お忙しいところをどうもありがとうございます。
お配りした資料にシリーズ「住まいの材料と室内環境」とあります。
シリーズと謳ってあるのは、今日だけに限らず、何回かに分けてこの問
題を考えようということです。
今日の課題は「住まいの中の化学物質を測ってみると……」です。こ
れは、まずは事実としてどんなことが起こっているのかというのを、僕
らはマスコミとかうわさ等で聞いていますが、実際に自分の建物でちゃ
んと測ってみた人はわりと少ないのではないかと思います。そういうこ
とから、実際にどんな化学物質があるんだとか、どんなものが出ている
のということを専門家にお聞きしたいと思いまして、今日は横浜国立大
学の花井先生に来ていただきました。あとで先生のお話を聞く前にちょ
っとご紹介します。もう一方は、われわれの仲間でもあるんですが、家
づくりの会の半田さんに来てもらっています。そして野沢と私が司会を
兼ねてお話のお相手をするということです。
こういう大きな会場を選んだんですが、大講演会をするつもりではあ
りませんで、できれば皆さんと一緒にこの問題を討論するという形で進
めたいと思いますので、こんな座席の配置にもなっています。ぜひ皆さ
んのご質問もあとから出していただいて、質問も受けながら、みんなで
対論という格好でやっていきたいと思います。
初めに花井先生に45分ぐらいお話をいただいて、そのあと、半田さん
もいろいろと実測されているので、そんなことも含めてこの3人で先生
に質問をするという格好で30〜40分話ををさせていただきます。そして
ちょっと休みいただいてから質問を受け、皆さんとディスカッションし
たいと思っています。
それでは花井先生をちょっとご紹介させていただきます。

花井義道先生のプロフィール

花井先生は横浜国立大学の環境科学研究センターで助手をされていま
す。先生のご専門は「化学物質による環境汚染」です。
ここのところ化学物質による室内汚染というのが非常に騒がれており
まして、そのことであちこちから「測ってほしい」という要請が多く、
大変お忙しくていらっしゃるようです。しかし先生のご専門は単に室内
汚染を測るということだけではなくて、もっといろんな広い範囲に及ん
でいまして、農薬の散布の影響に関する調査とか、もう一つ非常に大き
な業績としては、焼却炉から排出されるダイオキシンがどういうふうに
してできるかというメカニズムを突き止められた方で、ダイオキシンは
実際には焼却炉の中でできているのではなくて、電気集塵機の所ででき
るということを突き止められて、それをどうやって取り除くかという研
究もされ、実際にそういう装置を提案されたというか、システムを考案
されたということも聞いております。そんな非常に多方面にわたる化学
物質についての業績がおありの先生です。
まだ大変若い先生なんですが、実際にバンバンいろんな調査をされて
いる先生なので、そういうことに対する先生の実際の経験とか調査から
調べられた結果をお聞きできたらと思います。ただし先生は科学者でい
らっしゃるので、せっかくですから、もうちょっと基礎的な物質につい
ての話も一緒にお聞きできたらと思います。
それでは花井先生、お願いします。
講演「住まいの中の化学物質を測ってみると……」
花井 義道

はじめに
横浜国立大学環境科学研究センターというのは、ちょうど横浜新道の
入口の所にあります。学部としては特になくて、学生は工学部とか教育
学部とかから来ていますが、一応学部から離れた組織です。
環境科学とよく言いますが、環境科学というのは、サイエンスのほう
とケミストリーと二つあります。私がやっているのはケミストリーのほ
うで、環境中の物質について存在状態を調べるということなんですが、
実際には数学とか物理とかのいわゆる学問と違って、社会的な要請から
成立した分野です。
ちょうど1950年代から60年代というと、日本が、戦争が終わって工業
生産が再開され、工業が発達した時期ですが、そのころは製造工程で非
常に高濃度の汚染が見られた状態です。たとえば水俣とか四日市とか川
崎とか、非常に局地的に高濃度の汚染があり、公害が全国で多発したわ
けです。
1970年代になってからその防止技術が進み、直接的な被害は減ったわ
けです。公害の防止技術が非常に進んだということがその背景としてあ
るわけですが、1970年代からは消費過程での汚染が非常に重要になって
きます。消費過程というのは、たとえば車もそうですし、これからお話
をする室内汚染もそうですが、物をつくる所ではなくて、使っている所
での汚染というのが問題になってきております。そうした汚染は、局地
的な高濃度の汚染とは違って、短期的にはその被害というのはなかなか
目に見えてこないわけです。ただ、オゾン層が壊れるとか発ガン性物質
というのは、発ガン性物質があったとしても、すぐガンになるわけでは
ないわけです。最近問題になっている生殖機能が低下しているという問
題も、化学物質によって起こされているといいますが、目に見える形で
すぐ現象が出てくるわけではなくて、非常に短期的には目に見えない。
そういう被害というのが、1970年代、80年代、90年代に表に出てきたわ
けです。
ですから、以前は国立公害研究所というのが設立されましたが、80年
代になってからは環境科学研究所とか、「環境科学」ということが言葉
として使われるようになってきました。私の仕事は、そういう微量な環
境汚染物質の特に発生源を明確にして、汚染の防止にいかに寄与してい
くかということです。
(1)地球の成り立ち
ちょっと図式的になりますが、地球というのが基本になるので、地球
についてちょっと説明します。
地球というのは太陽系の惑星で、約50億年前に誕生したといわれてい
ます。ここで特に大事なことは、地球というのは非常に大きいようです
が、空気の層は非常に薄いもので、10kmしかない。直径が1万2000キロ
で空気の層はわずかに10kmですから、1m の地球儀で言うと、1mmの厚
さしかないわけです。そして重力が存在しているということは、閉鎖系
であるということです。もし開放系であれば、空気が宇宙に飛んで行っ
てしまうわけですが、そういうことがないということは閉鎖的で、光と
熱以外は出入りしていないということです。イメージで捉えると、1m
の地球儀に1mmの隙間をつくってガラスで覆っている。それが地球のイ
メージです。
よく人工衛星で宇宙を飛んだ人が、地球は空気が非常に薄いと言いま
すが、人工衛星も、あれは宇宙へ行っているわけではなくて、地球の周
りをぐるぐる回っていて、遠心力と重力とが釣り合った所で見ているだ
けなんですが、非常に薄い膜しかないわけです。
歴史をたどってみますと、原始の空気というのは炭酸ガスと水だった
そうですが、地球の内部から水が出てきて、海ができたわけです。海が
できたということで、太陽からの強力な紫外線が海水で除かれて、35億
年前に生命が発生したそうです。生命といっても、光合成をする緑藻類
だと思いますが、それが光合成をして地球の表面に酸素を放出してきた
わけです。酸素は重力でつながれていますから、地表で酸素の膜ができ
て、上空にオゾン層ができました。オゾン層ができると、地表でも生物
が生存できるようになり、陸上の生物が出現したわけです。そして2億
年前にほ乳類ができて、2000万年前に人類が出現したわけです。
火の使用というのはだいたい数十万年前なんですが、化石燃料を使う
ようになったのがだいたい200年ぐらい前です。それで産業革命が起こ
り、人口が増えて、大量生産・大量消費という形で地球の環境汚染が激
化したわけです。
図式的に描きますと、植物が水と炭酸ガスから有機物と酸素をつくり
ます。それを動物が消費します。化石燃料というのは、海水の地下のプ
ランクトンなどが石油に、陸上の植物は石炭に変わって、それを人間が
使っているわけです。
(2)化学物質は原子の組み合わせでできる
よく化学物質というのは化合物だといいますが、原子の組み合わせで
できるわけです。水素はH、炭素はC、酸素はOですが、こういう原子
の組み合わせで化学物質はいくらでもできるわけです。それは無機物と
有機物に分かれ、無機物の代表的なのは H2OとかCOとかCO2 です。
有機物というのは必ず炭素を含んでいて、炭素を含んだ化合物を有機
物と言うわけです。CH4 というのは炭素と水素の組み合わせで、メタン
です。C3H はプロパン、C6H6は六角形になっていて、亀の甲といいます
が、ベンゼンです。
ホルムアルデヒドというのは酸素が入っていてHCHOというんですが、
それはホルマリンで、室内汚染で問題になる物質です。
これは窒素が入っている尿素という物質ですが、尿素とホルムアルデ
ヒドが縮合した形になっているのがウレアディスという化合物で、それ
は合板の接着剤で問題になっています。
塩素が入っているものは塩化ビニールですが、これはモノマーで、炭
素と水素と塩素です。モノマーですから、常温では気体なんですが、こ
れが何万とかつながると、塩化ビニールというプラスティックの樹脂に
なります。
これはフロン1といって、いまオゾン層を壊すということで規制され
ていますが、これは冷蔵庫にも使われています。発泡剤としても使われ
ていて、室内汚染でもフロンは問題になっています。
このように物質は原子の組み合わせで有機物と無機物に分かれていま
す。言葉が無数にあるように、化学物質も無限にあるわけです。鉄も酸
化されると錆びます。ヘモグラミンというのは非常に複雑な化合物で、
鉄が真ん中にありますが、遺伝子なんかもすべて構造が違う化学物質に
なるわけです。
こういう有機物と無機物とあるわけですが、ちょっと関連して言いま
すと、塩化ビニールという樹脂を燃やすとどうなるかといいますと、酸
素があるから酸化されて炭酸ガスとか一酸化炭素になるわけですが、塩
素は、燃やして熱分解しても不滅で、原子構造が変わるということがな
いので、水素とくっついて塩化水素となります。フロンが燃えると、フ
ッ素がありますから、フッ化水素ができます。だから有機物の炭素、水
素の化合物というのは燃やせば炭酸ガスとか水になるわけですが、塩素
化合物を燃やすと塩化水素、フッ素化合物を燃やすとフッ化水素という
非常に有害な物質も出てくるわけです。
(3)高気密・高断熱と室内汚染の関係
次に最近の住宅について見ていきたいと思います。
従来の住宅と最近の住宅を比較してみたわけですが、日本の風土は非
常に高温多湿で、夏は暑いということがありますので、日本の建築はそ
の高温多湿に対応しているわけです。床が高いとか天井が高いというの
はそうです。素材も木材など、通気性・吸湿性の素材を使っています。
ですから石造りの建築などとはまるで違います。非常に開放的で、自然
で調整するというようなことだったわけです。
最近は、エアコンが非常に普及しましたので、夏の高温多湿はエアコ
ンで対応すればいいということで、非常に住宅の気密が良くなったわけ
です。日本の高気密住宅の背景にはエアコンがあるということです。
エアコンを使う上では、隙間だらけの家では暖房をしても効きめがな
いとか冷房をしても効果がないというようなことがあるので、非常に高
気密になりました。またさらに断熱材を使って高断熱ということで、非
常に密閉的で人工的な住宅になっているというのが、最近の住宅の傾向
です。
それがどうして室内汚染の原因になるかというということです。
先ほど石油化学工業が発達したといいましたが、石油は非常に値段が
安くて、今は1リットル=100円ぐらいで買えるわけです。その石油を
原料にすると、プラスティックが非常に安い値段で大量生産できます。
しかも品質も非常に均質化しているということで、そういう化学製品が
たくさん使われ、塗料とか接着剤になっています。
また、薬剤も非常にたくさん使われるようになりました。冬でも部屋
の中は暖かいので、虫が越冬するということもあるし、非常に気密の良
い室内で調理したりお風呂を沸かしたりするわけですから、湿度がたま
り、温度が低い部分に結露するわけです。そういう所は湿度が高くて、
カビが発生しやすいとか、ダニが発生しやすいということがあって、薬
剤がたくさん使われるようになった。それで室内汚染が悪化したという
ことが背景としてあるわけです。
その気密の尺度は換気率ということで表します。たとえば10m×10m
×10mというと1000立米ですが、それと同じ容積の外気が入ってきた場
合に換気率が1になるわけです。換気率がゼロの部屋というのはちょっ
と考えられないんですが、普通の木造住宅だと窓を閉めた状態で換気率
は1ぐらいです。マンションとかコンクリート住宅では0.5 とか、非常
に換気率は低くなります。窓を開ければ換気率は10とか、そういう高い
値になるわけですが、高気密住宅というのは、非常に換気率が低い。そ
れが室内空気汚染の背景としてあるわけです。

化合物VOCということがございます。VOCとは何かというと、液
体には沸点というのがあり、沸点というのは沸騰する温度です。沸騰と
いうのは、液体の内部から揮発してくるような状態を言います。外部の
圧力というのは、たとえばここの場合は1気圧です。気化する蒸気の圧
力が1気圧になる温度が沸点なんです。これはあんまり正確な定義では
ないんですが……。VOCは沸点が50〜250度ぐらいだといわれていま
す。50度以下はveryVOC、250度以上はsemiVOCといって、380〜
400度以上は粒子状物質といいます。ガスにならないで埃などに吸着し
て、空気を経由して人体に入って来ますが、まったく揮発しないもので
粉塵にもならないものは、人体には吸収されないわけです。意図的に食
べたり飲んだりすれば別ですが、空気を経由して入って来る場合は、あ
る程度蒸気になる圧力が必要になるわけです。それは沸点がだいたい50
〜250度です。使い捨てられた液体がありますが、あれは沸点が0度ぐ
らいです。ガソリンというのは沸点が50〜150度です。
こういうコップを並べて置いておいて何日か後に見た場合に、揮発性
のものはすぐ量が減っていることがわかります。難揮発性のVOCは少
し減っています。難揮発性のVOCでも、1年たてばなくなっていると
思いますが。ただ、揮発性のものはたくさん出て来るから、すぐなくな
って、部屋の中の濃度は非常に高い値になるわけです。不揮発性のもの
は、なかなか部屋の中の濃度は高くならないけれども、残留性は非常に
大きいということが傾向として言えます。
(4)どういう素材からどういう化学物質が出てくるか
まずどういう素材からどういう化学物質が出てくるかということを調
べました。ガスクロという方法で測ったんですが、木材はフェルペンと
いう成分が出てきます。α−ピネンというのが一番多いんですが、これ
は酸素と水素の化合物で、分子量は136 です。これは木の香りです。ヒ
ノキなどは特にこの揮発性のα−ピネンの量が多いんです。α−ピネン
はそんなに毒性は強くなくて、量が少ないと、人間をなかなか快適な気
分にさせるというような物質です。ただ、あんまり量が多いと気分が悪
くなるそうですが、適度な量は、森に入ったときに爽快な気分になるよ
うに、人間にとってはプラスに作用します。
木でも合板の場合は、木を接着剤で留めていますので、接着剤の成分
HCHO(ホルムアルデヒド)が出てきます。接着剤は、ユリア樹脂と
かベラミンとかフェノール樹脂とかです。ユリアが一番よく使われて、
先ほどいった尿素とホルムアルデヒドが、縮合といって水が取れてたく
さん分子がつながった状態になっているんですが、そのユリア樹脂から
ホルムアルデヒドがよく出てきます。
合板はJASという所でF1からF3まで農林規格というのが決めら
れていて、F1というのはあまりないらしいんですが、比較的揮発が少
ないF2というのが最近は品切れ状態だと聞いたことがあります。合板
から出る代表的なものは、その接着剤のホルムアルデヒドです。
次に塗料ですが、すぐ乾くのはラッカーといわれています。ラッカー
を使うことはあまりないんですが、溶剤も揮発性の化合物で、酢酸エチ
レルとかブタノーレとかトルエンとかキシレンとか、こういったものが
ラッカーの代表的な揮発性物質です。特に量が多いのはトルエンです。
これはシンナーとも言いますが、沸点が110度ぐらいですから非常に揮
発性で、塗っているときは、部屋の中のトルエンの濃度が高くなってい
ます。
ペンキには油性と水性とあります。油性の場合は、トルエンとかキシ
レンもありますが、炭素と水素の化合物のトリメチルベンゼンとかデカ
ン。11はウンデカン、これはドデカンといいます。もともとこれは灯油
とか石油の成分ですが、油性のものはよく溶けるということで、こうい
う炭素と水素の化合物が含まれています。水性塗料になるとどうかとい
うと、水性塗料は水に溶けるわけですから、溶剤も水によく溶けないと
いけない。ですから薄め液はエチルアルコールなんかを使っています。
ベンジルアルコールなんかも使われています。これはいずれも揮発性化
合物の代表的な成分です。
次に畳ですが、畳もいろんな種類の畳があるから一概に言えないんで
すが、化学処理した畳があります。藺草というのが畳の表面にあります
が、藺草は草の香りがして、新しい畳で藺草そのものだったら、香ばし
いような感じで、とても気分がいいんです。その成分はジメチルジサル
ファイドで、量が多過ぎると悪臭で、パイプ工場の悪習の代表的成分で
す。糊の臭いとか、畳の初期の臭いもそうです。
これはカプロアルデヒドというんですが、ホルムアルデヒドの仲間で
す。CHOで、炭素が多いと、お米を炊飯器で炊いて蓋を取ったときに
ちょっとツーンとした臭いがありますが、ああいう臭いです。
藺草の下に藁が敷いてある場合に、防虫加工というのをしています。
昔の畳は、日干しにしたりして手入れが良かったわけですが、今は畳を
干したりする人はいないので、防虫剤をよく入れているんですが、これ
はナフタリンという物質で、ベンゼンが二つくっついています。粒状の
ナフタリンが藁床の下に敷いてあります。これを入れた家は、入れた当
時はすごい刺激臭がして、測ると非常に高い値になっています。
あとは裏紙です。これはペンチオンという農薬なんですが、有機リン
系の殺虫剤です。これをさらに紙に沁み込ませて敷いてあります。
粒状のナフタリンは、半年ぐらいで揮発してなくなってしまう。当初
は部屋の中の濃度は高いわけですが、持続しないということで、持続性
の高い、要するに沸点が高い難揮発性の殺虫剤を紙に沁み込ませて、下
に敷いてあるわけです。これはフェンチオンといって、燐が入っていま
すので、有機リン系の殺虫剤です。これは、そんなには室内には出てこ
ないんです。量は少ないけれども、ジワジワと出てくるわけです。
次に壁紙です。塩化ビニールとかビニール製の壁紙ですと、最近は糊
が裏に付いていて、裏紙をはがせばぺったり付けられるわけですが、接
着剤ですと、最初はある程度柔らかくないといけないので、少し溶剤に
溶かしてあるわけです。いろんなのがありますが、これはメチルイソブ
チルケトンという化合物です。ケトンというのはCOがあって、隣にア
ルチル基が付いています。沸点が116度ですから、貼ってしばらくすれ
ば飛んで行ってしまいます。飛んで行くときには、部屋の中で臭いがす
るということはあります。
ビニールで難燃加工しているものもあります。これは難燃剤で、リン
酸トリブチンです。これがH3POだとリン酸になるわけですが、これはエ
ステルです。リン酸トリブチルというのはTBPとも言いますが、難燃
加工しているビニールの壁紙から出てきます。ただ、量は少ないです。
沸点がだいぶ高いですから。
ビニールはある程度柔らかくしないといけないということで、可塑剤
が入っています。これはフタル酸ブチルで、DBP(ジブチルフタレー
ト)とも言いますが、沸点が339度とかなり高くなっています。これは
日本中どこで空気を測っても出てくるような物質です。生産量も多いで
すから、どこの環境でも出るんですが、ビニールの壁紙から、こういう
可塑剤が揮発して出てくることもあります。ただ、量はそんなに多くは
ないんです。
ちょっと私が意外だったのは、断熱材からフロンという化合物が出て
きたことがあります。それは、NHKから、室内汚染に空気清浄器がど
のぐらい効くかテストしてくれということがあって調べたんです。ずっ
と締め切った部屋で空気清浄器を動かしていたら、フロンが非常に高い
値になったんです。
フロンというのはオゾン層を壊す物質で有名ですが、メタンの所に塩
素が3個とフッ素が1個付いているのをフロン1−1、フッ素が2個付
いているのをフロン1−2というんですが、これはフロン1−1です。
これはオゾン層を壊すということで、いずれ製造が停止されるわけです
が、ウレタンの発泡剤の気泡の中に、ふくらませるのにフロンを使って
いて、ウレタンの断熱材からじわじわ出てくるわけです。これはジクロ
ロメタンという成分ですが、塩素が2個付いています。これは発泡剤の
フロンを溶かすために使っているんだと思います。
いま冷蔵庫なんかでは、回収が義務づけられていますが、ウレタンフ
ォームなんかは、別に回収するという話は聞いたことがないし、地球環
境という観点から見たら、フロン自体はそんなに毒性は強くないんです
が、好ましいことではないと思います。
先ほど言いましたように、熱で分解するとフッ化水素とか塩化水素と
いう非常に酸性の強い有毒ガスに変わりますから、フロンが部屋の中に
充満しているような所でストーブとか火を使うと、問題だと思います。
フロン自体は毒性はないけれども、熱で分解したものは毒性が強いとい
うことです。
無機系の断熱材のガラスとかロックウールとか、こういうものからは
揮発性の化合物は出てきません。
あと農薬とか殺虫剤もよく使われています。化学式を見ますと、以前
はDDTとか芳香族の塩素化合物がよく使われていましたが、最近は有
機リン系の殺虫剤がよく使われています。これはシロアリ駆除剤のクロ
ロピリホスです。リンだけではなくて、塩素も付いた化合物です。クロ
ロピリホスメチルというのは、よく似ていますが、これは小麦粉なんか
からよく出てきます。以前のシロアリ駆除剤は塩素系のクロルデンとか
ですが、今はこのようにリンが入った化合物です。
あとチッソが入った農薬もあって、これはカーボメート系ですが、T
BZがそうです。ただ、TBZは揮発してこないんです。これは防カビ
剤としてよく使われています。
以上、ちょっと化学式をまとめて書いてみました。
(5)空気中の汚染物質測定方法とその結果
私は実際に空気を調べているわけですが、まず試料を採ってきて、そ
れをGC/MSとかGC/FIDというガスクロマトグラフという器械
で測定するわけです。
試料は袋に採ってきますが、吸着性のものは吸着管に採ってきます。
ホルムアルデヒドなどはDNPH管で反応させて、試料を採ってくるわ
けです。
実際に測定するのは、ただ空気を入れても測定できないので、吸着剤
が入っている管に空気を通して、10分間濃縮します。ここに採ってきた
袋をつなげて、すべて自動化しているんですが、ポンプで引いて、ここ
に濃縮します。一定時間がきたら、今度は流路を切り替えて、ここを加
熱して、吸着した成分を脱着し、このカラムで分離し、FIDという検
知器で測定します。この部分がガスクロマトグラフなんです。気体を、
ガスをキャリアーにして分離するのがガスクロマトグラフなんです。
実際に都市の空気を測りますと、こういうクロマトグラム(資料の図
1)が得られます。
都市の大気汚染で一番発生量が多いのは車の排ガスです。車のガソリ
ンの未燃の成分であるトルエンとかキシレンとかトリメチルベンゼンで
す。パラジクロベンゼンというのは、家庭でよく使われている防虫剤の
パラゾールですが、非常に分解が悪いのでなかなか浄化されないで、空
気中から必ず出てきます。これが一般的な都市大気のクロマトグラムで
すが、日本中のどこの都市で測っても、これと同じようなものです。
新築の家ではどういうクラマトグラムになるかというと、資料の図1
の上のようになります。下のクラマトグラムは外気です。
室内空気のクラマトグラムはたくさんピークが出ていますが、これは
入居前で、窓を閉めていたからなんです。たとえばトルエンの高さです
が、振り切れています。キシレンも振り切れています。木材からのα−
ピネンという成分もたくさん出ています。灯油成分のウンデカンとかド
デカンなども出ています。外気と比べると、入居前ではありますが、い
かに多くの化学物質が室内にあるかということがわかると思います。こ
れは木造の1戸建住宅です。
コンクリートの住宅について見ますと、これは横浜国大の環境研の新
しい建物ですが、やはり塗料から出る化学物質が多いんです。調査はで
きてから7か月後です。トルエンとかキシレンは減っていますが、トリ
メチルベンゼンなどは外気に比べると多くなっています。
次に先ほどの木造の家の1年後ですが、もうかなり減って、トルエン
とかキシレンは、外気とあまり変わらないレベルになっています。ただ
しまだ木材からのα−ピネンは出ていますし、入居した家で、防虫剤の
パラジクロルベンゼンというのを使っているので、パラジクロルベンゼ
ンの大きなピークが出ています。
実際に生活している家で調べるというのはなかなか難しいんです。何
年もしてまた採りに行くというまで研究は待っていられないので、あち
こちの家で調べた結果ですが、これは新築の入居前、これは外気で、こ
れは築2年です。入居前は非常に高い値ですが、築2年になると外気と
ほとんど変わらないんです。
同じ家で比較できないので、あまり精密ではないんですが、有機性化
合物をそれぞれ表にしてまとめてあります。(資料、表2)
このように入居前は非常に高いんです。WHOが一応目標値を出して
いまして、脂肪族炭化水素が100 、テルペン類が30、芳香族炭化水素が
50等、トータルで300(単位μg/立方メートル)です。このWHOのト
ータルと比べると、入居前の家は20倍から30倍ぐらいの高い値になっ
ています。
木造住宅の場合、入居して比較的早く減衰するわけですが、経時的に
測定していくとき、環境を一定に保つということができないですから、
同じ条件で比較するということができない。そこで横浜国大の研究施設
で、実際に揮発性有機化合物がどういうふうに減衰していくかというこ
とを調べてみました。(資料、表2)
まずトルエン、接着剤に入っているメチルイソブチルケトン(MIB
K)、ラッカーなどに入っている酢酸ブチル、こういった比較的揮発性
の化合物は、もう1週間で大幅に減少しています。それよりやや沸点の
高いブタノールとかキシレンとか、脂肪族炭化水素のノナンとかは、1
週間ではほとんど変化はないんです。ただ、これは1月に竣工したんで
すが、竣工後初めての春に値がやや高くなっている傾向があります。そ
の現象がもっとはっきり出ているのは、もう少し沸点の高いウンデカン
とかトリメチルベンゼンとかジエチルベンゼンで、レベルから見たら、
さっきトルエンは1000ぐらいの値が出てくると言ったんですが、それに
比べればずっと低いです。ただ、1週間ではほとんど変化がないけれど
も、1月から3月、4月にかけて濃度が上昇しています。これは気温が
高くなって、寒いときには揮発してこなかったのが揮発して出てきたと
考えられます。それでも徐々に減っていって、春先の3月4月に比べた
ら、8月9月のほうが気温はもっと高いわけですが、もうすでにかなり
減少しています。
一般的に、これ以外の調査によっても、竣工して一夏過ぎれば、揮発
性の化合物は大幅に減少するということが言えると思います。ただし、
冬に竣工した場合、春先とか5月6月は非常に高く、竣工直後よりも高
くなる物質もあるということを理解していただけたと思います。
次に、先ほどのVOCとか、そういう化合物の分類から見ると同じV
OCですが、沸点によって残留性が低いものと高いものとを分けてみま
した。トルエンの沸点は110ぐらいで、非常に残留性は低い。このへん
は中間ぐらいで、残留性の高い物質です。沸点は化学辞典を見ると出て
いますから、どの程度残留性があるかというのは推定できます。
揮発性有機化合物は、とにかく最初の一夏を過ぎるまではたくさん出
てきますから大事なんですが、もう一つの代表的なホルムアルデヒドに
ついて見ますと、ホルムアルデヒドはそう簡単に減衰してくれないんで
す。これは宮崎さんという方が前に調べたんですが、都市の大気だと2
ppb であるのに対して、築7年でも33ppb ですから、新築だと100ppbを
超えているわけです。ホルムアルデヒドの場合は沸点は低いんですが、
なかなか減少してくれないんです。
先週、NHKに頼まれて、仙台のほうの1戸建の分譲地で子供に病気
が多いから調べてほしいということで試料を分析したんです。揮発性化
合物は、屋根裏などは高いのですが、ほとんど外気に近づいています。
ホルムアルデヒドは、外気が2ppb であるのに対して、築2年でも49と
か17とか、外気よりもはるかに高いレベルです。ホルムアルデヒドは樹
脂の中に含まれているわけですが、塗料の溶剤などに比べると、残留性
は強いようです。
(6)室内空気汚染物質の濃度と換気率の関係
室内の濃度を決定する要因としては、換気率が非常に大事になってき
ます。室内の空気をいろいろ条件を変えて実験してみた結果ですが、横
軸が時間、縦軸が濃度です。測っているものは炭化水素です。まず天井
のペンキを塗り替えて、約1か月後の室内の空気なんですが、すべて開
放して、そのあと窓とドアを閉めますと、部屋の濃度はじわじわと上が
ってきます。ここで換気率は0.43という値です。それからドアを開ける
と、当然室内の汚染は下がってきます。ドアを閉めると、また同じよう
に上がってきます。
 一応計算式も出まして、部屋の中の増加速度は揮発量と換気率によっ
て決まるということですが、これを積分しますと、発生量にも比例する
わけですが、換気率の逆数に比例するということがわかりました。要す
るに部屋の換気率が10倍になると、 部屋の中の濃度は1/10に下がるとい
うことが言えます。ですから、換気の悪い部屋ですと、部屋の濃度はど
んどん高くなります。窓を開けていったんきれいになっても、また窓を
閉めて密閉状態になると、部屋の中の濃度は高くなります。
最近の住宅は、昔のように大家族でおじいさんとかおばあさんがいる
というようなことではなく、核家族で、昼間閉じきっている家が多いで
すから、そういう家ですと、昼のうちに部屋の中の濃度が高くなって、
夜帰って来ると、窓も開けないですぐエアコンのスイッチを入れる。そ
うなると、部屋の濃度は非常に高くなるわけです。ですから留守でもあ
る程度換気用の窓が付いていれば、そういうことが防げるわけです。

(7)シロアリ駆除剤の被害例
次にシロアリ駆除剤の被害の実例です。シロアリ駆除剤の汚染という
のは私が室内空気汚染を調べたきっかけで、あっちこっちでシロアリ駆
除剤を撒いたあとで体がおかしくなったという訴えがあって、その空気
を調べてほしいということがあったわけです。そういう所はだいたい新
築の家ではなくて、古くなって、かなり床下からの空気が入ってくるよ
うな家だったんです。
シロアリ駆除剤というのは、もともと日本の住宅の床下というのは非
常に風通しが良かったわけですが、薬剤というのは値段も安いし、床下
を広くとってコストを上げるよりは、シロアリ駆除剤を使ったほうが、
値段も安いということもあって、環境汚染ということは考えずに安易に
使われていたわけです。
シロアリ駆除剤としては、有機化合物のクロルデンというのが以前は
使われていたわけです。化学的に安定な有機塩素化合物ですので、食物
連鎖によってカエルとか魚からも検出されるようになって、クロルデン
は全面的に使用禁止になったわけです。別にクロルデンで病気になった
から禁止したというわけではなくて、広く環境を汚染していたからなん
ですが、カシン法?で使用が禁止されましたので、それに代わったクロ
ルピリホスとかフェニトロチオン(セミチオンとも言う)、ホキシム、
ピリダフェンチオンといった有機リン系とか有機塩素系の殺虫剤が出て
きました。
被害調査例の最初は、クロルピリホスの油剤とカプセルで、床下処理
をしたわけです。これは眼科のお医者さんで、薬剤についての知識は非
常に豊富なんですが、「まさか有機リン系の非常に強い毒性を持つ薬剤
が使われているとは思ってもいなかった」と言うんです。
それで床下処理した当日から、頭が痛いとか胃が痛いということで、
非常に弱ってしまったわけです。空気中の濃度を測ってほしいというこ
とで3週間後に調査したんですが、クロルピリホスは 0.24 とか0.01で
す。床下は30です。0.24というと、先ほどの室内汚染の100 とか1000と
いうのと比べるとはるかに低いんですが、非常に微量でも、医院ですか
らそこで治療をするわけですが、そこにいると気分が悪くなって、とて
も診療できない。
そこで今度は自分の庭にプレハブの診療所をつくったんです。そうし
たら、こういう化学物質に非常に敏感になっているので、ホルムアルデ
ヒドのためだと思うんですが、さらに症状が悪化して、結局病院を閉鎖
したわけです。現在は連絡がとれていませんが……。
クロルピリホスを撒いたときは、もっとはるかに高い値だったと思う
んですが、一度ひどい被害に遭うと、以後ごく微量なクロルピリホスと
か、それ以後のホルムアルデヒドなどの化学物質とかでも、敏感に症状
が出るようになるわけです。
もう一つの例は、これは川崎のお宅なんですが、同じようにクロルピ
リホスとフェニトロチオンのカプセルで床下処理をしたわけです。カプ
セルというのは、マイクロカプセルとかいって、カプセルの中に小さい
穴が開いていて、湿度が高いとじわじわと沁み出してくるわけです。
この方も、床下処理したあとから、胃が痛かったりして入院して、と
ても住めないということで転居しました。
一度ひどい被害に遭うと非常に敏感になって、物質の量が多いとか少
ないからではなくて、あるという情報によって、身体のほうで勝手に情
報として処理して、化学物質が入ってきたということで過剰に症状が出
るようになるわけです。ひどい目に遭わなければ平気だけれども、一度
遭うと、微量でも感じるわけです。それは花粉症でも同じようなことが
言えると思います。花粉症も、今までは平気だったけれども、急に花粉
症に敏感になるということがあるわけです。
 三つ目の調査例ですが、これは新築の家ではなくて、何年かたった家
です。ザオールで床下処理したところ、非常に頭の痛いところですが、
やはりザオールが出ています。このお宅は1回引っ越したんですが、私
が、「窓を多くして風通しを良くすれば、ある程度部屋の状態が良くな
りますよ」と言いまして、家を少し改良して、2年後調査ではまだ出て
いたんですが、本人はけっこう元気になっていました。
このようにシロアリ駆除剤の被害には非常に深刻な事例があります。
それに比べると、揮発性有機化合物はそれほど深刻な被害というのは聞いたことがないです。
それ以外にも、新築の家ではないんですが、家庭内で殺虫剤というの
が非常に安易に使われています。たとえばバルサンとかのスプレーなど
で、部屋の中は建材なんかよりもはるかに高いレベルの濃度で汚染され
ています。有機リン系の殺虫剤は、冬でも暖かくて害虫が発生しやすい
ということもあり、テレビで盛んに宣伝するということもあって、家庭
内で非常に安易に使われています。ですから、家で病気になったという
人は、建材も疑ってもいいんですが、殺虫剤を安易に使ってないかとい
うことを疑ってみる必要があります。
特によくある事例はパラゾールです。何度も出てきますが、パラジク
ロルベンゼンと言って、玉になっているヤツです。箪笥などにも入れま
すし、トイレなどにも入れます。トイレでこのパラジクロルベンゼンを
使った例では、外気は2ppb というレベルですが、トイレは2000ppb 、
隣の部屋でも高い値が出ている。1か月たつとほとんど揮発してなくな
っているんですが、トイレでも隣の部屋でも、まだ外気よりも高いレベ
ルなんです。
(8)化学物質の毒性
最後に化学物質の毒性についてお話いたします。これは私の専門では
なくて、北里大学の石川先生が『あなたも化学物質過敏症』という本で
出している表を引用させてもらったんですが、化学物質過敏症というの
は、化学物質の量が非常に少ないppb レベルでも症状が出るということ
です。そして固体差が非常に大きいということが特徴です。それより量
が多いと、アレルギーになります。さらに量が多い場合は中毒になりま
す。中毒というのは非常に深刻で、死に至るようなことがあるわけです
が、個体差は少ないわけです。化学物質過敏症というのは、人によって
症状が出たり出なかったりして、非常に個体差があります。そして非常
に微量だということが特徴です。
ちょっと変わっているのは、化学物質が曝露されているときは、非常
に神経が高まるというようなことがあるらしいんです。その化学物質を
除くと、気分が落ち込んだりすることがあるそうです。ですから、気分
が落ち込んでいるときに測定に行っても、何も検出されないということ
があるわけです。
化学物質過敏症というのは新しく出てきた概念ですが、非常に量も少
なくて、個体差も大きいということで、測定のほうもなかなか難しく、
あちこちから「調べてほしい」という電話が掛かってきて、調べに行っ
ても、何もわからないことがよくあるんです。
花粉症も花粉自体は別に毒ではないんですが、確実に花粉症というの
があるように、化学物質過敏症というのも、化学的にはまだ未解明の部
分がありますが、確かに存在するということを認識して、特に化学物質
に敏感な家庭の設計をされるときは、できるだけ建材に注意するという
ことと換気を良くする設計にすることがポイントになると思います。
一応これで終わります。

[対論]
長谷川 半田さんもだいぶ実測をされていますが、何年間に何軒ぐらい
されたんですか。
半田 僕は今日なぜこんな所に座っているかというと、ちょっと自己紹
介をさせていただきますが、主に普通の住宅をやっている設計事務所を
やっているんです。花井先生のように研究者でもありませんし、ごく一
般的な設計事務所をやっている者なんです。
なぜこの問題に関わったかといいますと、竣工間際の現場に行きます
と、目がちかちかする。そういうことは皆さんお感じになっていらっし
ゃると思います。それから、私はいま40代半ばです。20年ぐらい前、そ
れ以前と言ったほうがいいかもしれませんが、当時の住宅の新築の匂い
というのは、木の香りとか藺草の香りだとか、わりと良い匂いだったと
思うんです。最近の新築の家というのは、ビニールの匂いであるとか石
油系の匂いであるとか、けっして良い匂いではないですね。何かおかし
いなということは、つねづね思っていました。
あるとき新聞記者の方から電話が掛かってきて、その方が、アメリカ
で化学物質過敏症というものを取材してきたんだけれども、こういった
ものがいま日本で実際存在するのか、ということなんです。そのときに
「こういう症状があるんだよ」というようなことをいろいろ聞いて、ピ
ンと来るものがあったんです。
それはどういうことかというと、もう20年近く前なんですが、私があ
る非常に過敏な方の家を担当したことがあるんです。その方は、「接着
剤は絶対使ってくれるな。ベニヤもダメだ」と言われたんです。何か神
経質な人で、どうかなと思ったんですが、現実にその方は、自分の家を
増改築したときに、職人さんが接着剤を使って、そのあと自分がその家
に行くと、頭が痛くなったり発疹が出たり、気分が悪くなるんだという
ことで、水道の配管も一切塩ビ系を使わない。塩ビだと当然接着剤を付
けてちょっと挟みますね。それもダメだということで、全部鉄管とか鉛
管とかライニング鋼管とかを使いました。内装もできるだけ合板を使わ
ないで、無垢の木を使うということにしたんですが、合板ゼロというわ
けにもいかなかったものですから、現実には合板も使ったんです。
その方がおっしゃるには、「合板は古いヤツは全然いいんだ。新しい
ヤツがダメなんだ」と。その方は、でき上がってから半年以上入居しな
いで、毎日全部開けて風を通して、それから入居されたんです。
それで事なきを得たんですが、そのとき何か変だなという感覚を持っ
ていたんです。その記憶があったものですから、その記者から化学物質
過敏症の話を聞いたときに、妙に話がぴったりするので、これはやっぱ
り真剣に考えなくちゃいけないなと思ったんです。特に現実に新築現場
で目がちかちかすることはしょっちゅう自分で感じておりましたので、
少し勉強を始めました。
具体的に勉強を始めたのは2〜3年前なんですが、私一人ではそんな
に調査することもできません。たまたま私は「家づくりの会」で、設計
事務所の仲間で集まっていろんなことをやっているものですから、そこ
に持ち込みまして、そこでいろんな勉強会をやったり、いろいろ数値を
聞いても全然ピンとこないものですから、現実に僕自身が設計した家は
どういうレベルなのかを知りたくて、測定をしてみました。
いろいろな先生のお話を聞いて僕が愕然としたことがいくつかありま
す。花井先生と同じようなある研究者の方が、自分がなぜ室内汚染に関
わったのかというお話の中で、その方は大気汚染の測定をされているん
ですが、あるとき交差点である物質を測っているときに異常値が出たと
いうんです。なぜ異常値が出たかを調べてみたら、なんと交差点の脇の
プレハブ小屋に測定器を置いていたらしいんですが、空気を引き込んで
いるホースが外れていて、交差点の空気ではなくてプレハブ小屋の室内
空気を測っていたんだそうです。それで非常に高い値が出た。これは何
だということで、室内汚染に取りかかったということなんです。
先ほどの花井先生のお話にもありましたが、有害な化学物質というの
は、もちろん屋外にもあるわけです。排気ガスなどはその最たるものだ
と思います。そして一般の方は、外は汚いけど、室内の空気はわりあい
きれいだと思っていらっしゃるんです。花粉とか粉塵に関しては確かに
そのとおりで、室内はきれいなんですが、化学物質に関しては、室内に
発生源がありますので、必ず室内のほうが汚染が進んでいるわけです。
それと、エアコンの普及で夏でも窓を開けないことが非常に多くなって
きていますので、そういったことでこういう被害が出ている可能性が非
常に高いのではないかと思います。
ただ、今までこういった問題が話題になってなかった一つに、家を新
築したことによる被害なのか、それとも一般的な大気汚染とか食物汚染
とかによる汚染なのか、区別がなかなかつきにくいということがあった
と思います。これは基本的に複合汚染だと思いますので、なかなかはっ
きりしないんですが、新築の場合は、そこに移ったとたんに気分が悪く
なったとか害が出たということになります。われわれにどこまで責任が
あるかわかりませんが、それが引き金になるというか、エレベーターに
最後に乗った人がブーと鳴る音で恥ずかしい思いをするように、われわ
れが最後の一押しをする可能性が非常にあって、一生懸命その人のため
に良かれと思って設計した家がその人の健康被害を起こしてしまうとい
うその加害者の立場になる可能性が、われわれは非常に高いわけです。
そういう意味では「世の中はみんなそうなんだから、いいじゃないか」
とは言っていられないなという感じを多く持ちまして、こういった問題
にいろいろ関わってきています。
たとえば私が測った範囲での例をご説明しますと、まずVOCです。
私が測ったのは、一応窓を開放して外気を全部入れて、その家の状態に
おいて窓やドアを全部閉めて4時間密閉した状態での空気をサンプルに
採って分析したものです。
VOCというのは、先ほどの話にもありましたように、いろんな物質
がたくさん含まれているものですから、それをメタン換算してppmcで表
したんですが、一番高かったのは59ppmc,一番低かったものでも1.6 と
か2です。これだと良いのか悪いのか全然わからないわけですが、WH
Oの基準からいきますと300micg/ だと思うんです。それはppmcに換算
すると、3.5ppmc ぐらいだと思うんです。
これは新築直後、それから100 日後、200 日後というふうに継続調査
してみたんですが、新築直後において測った状態を基準にしますと、14
軒中12軒で 3.5ppmcを超えておりました。
長谷川 これはどんな仕様の家ですか。わりと木造っぽい家ですか。
半田 そのへんの仕様についてはこれからお話したいと思います。
長谷川 簡単でいいんですが、先生の測られた家の仕様とまた違うかも
しれないしね。それでもけっこう出ているみたいなんですが。
半田 これはわれわれ設計者がやっている住宅が多いですから、一般の
ハウスメーカーがやっている住宅に比べると、どちらかというと新建材
は少ないほうだと思います。ただし、現場塗装がそういうものに比べて
多いものですから、VOCに関してはわりあいと高めかもしれません。
ただしVOCのほうは、半年たつとだいたい1とか2とかいう数値に戻
っていました。
あと花井先生と比べてかなり傾向が違うなと思ったのは、これは何月
に測ったかというのはあるんですが、いつ測っても、わりと竣工直後に
高いんです。VOCは10度室温が上がると放出量が倍ぐらいになるとい
うお話でした。そういったこともあるんでしょうが、竣工何日目という
ぐらいのほうが現実には影響が大きいような気がしました。
長谷川 さっき花井先生が出されたデーターを見て、どのくらい多いの
か少ないのかよくわからないんですが、先生の測られた家とこれとを比
較すると、VOCに関しては、同じような傾向ですか。それともかなり
違っていますか。
花井 同じような傾向です。部屋の温度を変えて実験したんですが、温
度が10度上がると、部屋の中の濃度は2倍ぐらいになります。
長谷川 本当は家の仕様がだいぶ違うと思うんです。先生の測られたのは……。

花井 木造の1戸建です。
長谷川 仕上げはビニールクロスが張ってあるような感じですか。
花井 そうですね。塗料はそんなには使ってないです。塗料というのは
揮発性の物質をたくさん含んでいますから、VOCは高くなります。
OMのお宅でも、木造ですと、塗料の芳香族炭化水素とか木材のα−
ピネンとかが出ます。OMのお宅で床下から風を吹き出していますね。
床下に有機リン系の殺虫剤を使っている場合、測ってみたら、かえって
室内のほうが高くて、吹き出す所は低かったんです。それは意外だった
ですね。床下全面に散布した場合は非常に高い値が出ますが、域内だけ
に散布している場合は、また違ってきます。ただ、台所の床下に格納ボ
ックスがある所があります。そういう所にお米とかを入れておくと、お
米というのは呼吸しているから、吸収します。
以前、お米を輸入するかしないかという議論でもめたときに、外国か
らのお米を測ってみようということで調べたんです。そうしたら、クロ
ルピリホスがたくさん出てきたんです。そんなのはポストハーベストで
使ってないということでクレームがあったんですが、あとでわかったの
は、お米を貯蔵している倉庫をシロアリ駆除剤で処理していたんです。
そういう所に貯蔵していて、お米に移ったということがわかったわけです。
長谷川 ちょっと話がダブるんですが、僕が面白いなと思ったのは、半
田さんは建築家としてやっておられて、「家づくりの会」の家を写真で
見ていても、自然材を使っていますよね。いわゆる住宅産業型のビニー
ルクロスの家じゃないんだけど、非常に花井先生の測定と似たような傾
向を示している。やっぱり現代の家づくりというのは、なるほどそうい
うものかなという気がしたんですが、続けてもうちょっと説明していただけますか。
半田 もう一つホルムアルデヒドに関してもご説明したいんですが、こ
れはどうやって測ったかというと、サンプルを24時間そこに放置して、
その24時間平均値を出しています。短時間ではデータが違うと思うんで
す。一応これは24時間平均値ですが、基本的に、新築当時においては、
24時間窓を閉めた状態で放置するということで測っています。200 日後
というのも、基本的には24時間窓を閉めていただいて測った値です。
ここで、使っている材料と測った季節によって特徴的な傾向が見られ
ました。たとえば新築直後で見ますと、これも14ポイントで測っている
んですが、WHOの基準は0.08ppm(30分平均値)で、カナダの基準とか
カリフォルニアの基準は0.05ppm ですから、一応0.05ppm で線を引きま
すと、測った14ポイント中の10ポイントで、この基準値を超えておりま
す。なんと合格したのは4ポイントしかありません。
特にひどいのは、このへんから上が特異例なんですが、一番高かった
1.880ppmは、ちょっと特殊な、木の屑を接着したような内装材を使って
いる。しかも測ったときが7月で、窓を24時間密閉していただきました
ので、非常に高温度だったということがあります。それでこんな数値が
出ています。これはできて半年ぐらいなんですが、「冬にできたときは
何も感じなかった。夏になってからとてもいたたまれないぐらいになっ
ちゃった」というお話で、測らせていただきました。
2番目に高い1.0 という数値は、竣工直後の食器棚の中です。これは
ドアを開けると目にチカチカッとくるような状態でした。
長谷川 それはありますね。僕も最近竣工検査をやって、戸棚を開けた
らフワーッとすごい匂いがしてきましたね。
半田 これは、使っている材料が、内部は全部ポリ合板です。どうも私
が今まで測った中では、ポリ合板は非常に発生する濃度が高いと思いま
す。ただし半年後には0.24ですから、半年で約1/4 ぐらいに減衰しています。
ここの値も非常に高いんですが、これは築半年後でこんな高い値を示
しているんです。しかしこれも7月に測ったんです。この方は実際に被
害に遭われて、目に障害が出た方です。被害が出たので測ってほしいと
いうことで測ったわけです。これも夏の状態で24時間クーラーも使わず
に密閉した状態になっていますので、特別高い値が出ていることは間違いありません。
それ以外のこれから下のブロックに関しては、だいたいわれわれの仲
間が設計した家で測っています。それで見ると、一番高い値でも0.2ppm
です。ただ、これも8月に屋根裏部屋で測っていますので、昼間は楽に
30度を超えている。夜でも30℃近い温度がある部屋でそれぐらいです。
この0.2ppmというのは、いろいろ話を聞いてみますと、プレハブメー
カーの家とかマンションなどでは、こういう温度でなくでもこのぐらい
の値が出ている例はたくさんあるということです。
このへんのグループには測定した月が書いてあるんですが、ここでは
っきり読み取れるのは、春先から夏にかけて測ったものが圧倒的に値が
高く、冬に測ったものはかなり低いということです。
このへんはわれわれが設計したものですから、どんなものを使ったか
全部はっきりわかっているわけです。たとえば私が設計した家で、まっ
たく同じ仕様の部屋で比較してみますと、ここの0.028 というのはかな
り基準値よりも低いんですが、こちらは0.148 です。まったく同じ仕上
げでもこのぐらいの差が出ています。床は、合板だったり無垢だったり
しますが、フローリングです。壁はシナ合板をたくさん使ってあって、
天井はボードにペンキという仕上げですが、季節によって放出する濃度
が非常に違う。特に密閉した状態ではかなり違うという結果です。
ただ、ここで一つ特異例がありました。7月に測ったのに0.039ppm、
要するに0.05ppm 以下だった家が1軒だけあるんです。だいたいこのへ
んは自分の設計でなくても、設計者がやるものですからだいたい似たり
寄ったりなんですが、この家だけは、床は秋田スギの木材、壁は土壁、
天井も秋田スギ。これしか使ってないという家なんです。これだけは7
月でも特異的に低い値が出ています。
このグループで仕上げを見てみますと、比較的和風仕上げの部屋は低
い。それに対して洋間は比較的高い値であるという傾向が、はっきり出
ています。ただし、この「IT広間ー4月」と書いてあるお宅でも、V
OCだけは高かったんです。これがそのお宅で、同時に測ったVOCな
んですが、約半年たって、VOCがやたら高かったんです。これはなぜ
かなということが話題になったんですが、実はこの家は、秋田スギの木
材ですから、測る前の日か前々日か、直前に床にワックスを塗ったらし
いんです。どうもこれは床のワックスのせいではないかと思われます。
先ほどの花井先生のお話にもありましたが、ホルムアルデヒドのほう
はなかなか減衰しないんです。ある研究者の資料には、ベニヤは2か月
で測定できないほどまでに減る、というようなデータも実はあったんで
すが、実際に測ってみたら、全然そんなことはありません。確かに急速
に減衰することはするんです。本当にこれが安全な値かどうか私にはわ
かりませんが、ここまで下がるには、半年では無理ということが言えま
す。しかも冬になって下がったかに見えても、また上げるということがあるのではないでしょうか。
あと、ベークアウトというのがよく話に出てきて、皆さんもお聞きに
なったことがあると思いますが、ホルムアルデヒドに関しては、たとえ
ばこの家でベークアウトをやったんです。それで一時的にはほとんど下
がったんです。ところがまたグーンと上がってしまいました。お話を聞
いてみると、どうもホルムアルデヒドに関しては、加水分解して徐々に
出てくるということもあるらしいんです。最近は、厚めの合板を使った
り、表面にクロスを張ったりして密閉してしまいますので、実験室でベ
ニヤだけ単体で値を取ったのに比べれば、発生する時間はかなり長期間
にわたるのではないかと思います。特にキッチンなどのように、扉でき
ちんと閉めて、しかも虫が入らないようにパッキンがしてある所に関し
ては、何年たっても全然減衰しないという測定結果が出ていると聞いております。
それに対してVOCのほうですが、このかなり高かった値は環境基準
の4倍ぐらいの値なんです。これはOMソーラーとエアコンの二つでも
ってベークアウトをやって、12.9あったものが一挙に4.4 まで下がりま
した。その後一夏を過ぎて測りましたら、2.0 ぐらいにまで下がってい
ます。ですからVOCに関してはベークアウトが非常に有効ではないかと思います。
先ほどOMの話が出てきましたが、私のほうではOMの家をたくさん
やっているものですから、OMの家ではどのぐらい影響があるのかとい
うことで、OMをやってある部屋とそうでない部屋とを同時に測りまし
た。片方は、OMの吹き出し口を全部ガムテープで密閉した状態で、窓
は開放して、それから窓を閉めて、一定時間内で測るという方法でやり
ました。これは一つの家でやったのですが、明らかにOMの効いている
部屋のほうが、効いてない部屋よりも数値は低かったです。これは明ら
かにOMの換気効果によって、濃度が下がったんだと思います。内装は同じわけですから。
もう一つ気になったのは、シロアリ駆除剤を撒いたOMの家で被害が
出た方がテレビに出たことがありますが、OMの場合、外気を取り入れ
て換気しているわけです。外気のほうが当然室内よりも濃度が低いわけ
ですから、換気することによって良いことが必ずあるわけですが、野地
板にホルムアルデヒドがたくさん含まれている合板を使えば、熱で暖め
られるわけですから、当然そこからたくさん出てくるわけです。それが
室内に撒き散らされるという可能性もなきにしもあらずだと思います。
現実に、雨の日、曇の日、晴れている日とで測ってみますと、明らかに
晴れている日のほうが濃度が高かったです。ということは、やっぱり野
地板等から出ているということがありうると思います。ただし、これは
こういう高い数値ではありませんで、このへんのレベルの数値です。そ
れでOMが動いていたときと動いてないときとを比べれば、明らかに動
いているときのほうが高かったんですが、それでも室内濃度がこういう
高い値になるような数値ではありませんでした。やはりOMを動かして
いる部屋と動かしていない部屋とでは、OMを動かしている部屋のほう
が低いということが出ています。
長谷川 どうもありがとうございました。野沢さん、何かございませんか。
野沢 僕自身は日本建築家協会という所でも、この手の問題についてい
ろいろと専門家の方から話を聴いたりすることを企画したり、やったり
していて、今日のお話は、測定についての基のほうからのお話を聴かせ
ていただいて大変興味深かったんですが、建築を実際に設計する立場の
者から言いますと、換気だけで解決するわけにもいかない。たとえばも
う一方で、その建築物がエネルギー的に多消費であってはならないとい
う問題があって、どちらかというと、なるべく熱的なやり取りを自然に
任せるわけにはいかない夏と冬を日本は持っているんだという言い方も
あるわけです。そのへんのAを取るかBを取るかというあたりの悩まし
いところの一つが、この問題でかなり大きく出ているなと思います。
今日のお話は、ご存じの方は再確認ということかもしれませんが、そ
ういう意味でびっくりされた方もずいぶんいらっしゃるのではないかと思いました。
今度は別の話ですが、もう一つの問題として、さっき花井さんと部屋
でちょっと話をしていたときに、廃棄物の2/3 は建築廃材によって生産
されているという話がチラッと出たりしました。私が別の所で仕入れた
情報では、日本の住宅はだいたい20年を切るぐらいの平均寿命で、解体
されている。ヨーロッパ、アメリカでは、それの2倍3倍を住宅の寿命
としているということがありました。
先日テレビを見ていましたら、某区役所の解体ゴミが、違法な投棄場
所に捨てられていて、それがほとんどクーリングタワーの中に充填され
ている塩化ビニールの塊であった。それを夜まで火をつけて燃やしていた、と。
そういうものを見たりするものですから、さっき長谷川さんがちょっ
と触れていらっしゃいましたように、住宅一個の問題を世界と考えるの
ではない地球規模の問題、一人の家庭が救われることではなくて、われ
われ全体を家族としたときの家庭である地球の、いまわれわれのつくり
出してしまっている大気汚染のことについて、良い機会ですので、お考
えをちょっと話していただけたらと思いますが。
花井 塩素化合物で一番最初に問題になったのは有機塩素系のDDTと
かですが、そのあとPCBが出てきました。塩素化合物というのは、自
然界にない化合物ですので、なかなか分解しないわけです。
その塩素化合物について廃棄物との関係で言いますと、塩化ビニール
というのを燃やすと、塩化水素が大量に発生します。それが酸性雨の原
因になるわけです。有機塩素化合物でもできますが、それほど量は多く
ないんです。それがダイオキシンに結びつくのは、塩化水素として灰の
中に吸収される。灰というのは未燃の有機物が含まれていますから、そ
こで塩素化反応が起こってダイオキシンとか有害なものがつくり出され
るわけです。だから廃棄物の処理過程で、灰の中での塩素化反応によっ
てできるわけです。塩化ビニールは塩素の供給源として作用するわけです。
私が塩化ビニールよりも問題視しているのは、塩化ビニリデンという
物質です。塩化ビニリデンというのは、塩化ビニールに塩素が二つ付い
た化合物で、商品名で言うと、サランラップとかクレラップなどです。
建材には使われてないんですが、家庭で使われています。量はそんなに
多くないんですが、あれは塩化ビニールよりもっと有害なPCBとか塩
化ナフタリンといった成分が不完全燃焼で大量に発生します。
サランラップなどを洗って何度も使う人っていませんね。それがゴミ
焼却場に捨てられるわけです。完全に熱分解して中和すれば別に問題は
ないわけですが、まず完全に熱分解することはなかなか難しくて、不完
全燃焼が少し起こるわけです。そういう過程で、最近はコプラナーPC
Bなんかが問題になっていますが、そういう有害な物質が発生します。
だから必ずゴミになるものにはそういう塩素系のプラスティックは使わ
ないということが大切です。塩化ビニールは、確かに優れた性質を持っ
ているから、水道管など、ある所では使っていいと思いますが、サラン
ラップみたいに必ずゴミになるものに塩素系プラスティックを使うのは
良くないと思います。
もう一つは断熱材のフロンです。断熱材も、ガラスウールとかロック
ウールとか、そういう無機系のものは出ないんですが、有機系の化合物
は……。発泡剤でなにもフロンを使わなくてもいいと思うんですね。地
球環境で、これほどオゾン層の破壊が問題になっているんですから。オ
ゾン層というのは、長いこと地球の植物が酸素を出して、何億年かかけ
てやっとできた層なんです。そういうものがいとも簡単に壊れる。しか
もそれがppt (10億分の1)といったレベルで壊れるんです。そういう
ことが問題になっているときに、1戸の家の断熱にフロンを使うという
のは、発想として間違っていると思います。
あとウレタンとか塩ビとかは熱分解で大量の毒性のある成分を発生し
ます。窒素が入ったウレタンとかユリアなど窒素化合物は、シアン化水
素とかを熱分解で大量に発生します。まさか火災のことまで考えて建築
するということはないわけですが、火事のとき、火傷で死ぬのではなく
て新建材から発生する毒物を吸って死ぬ方もかなりいると思うんです。
そういった事故も考えて建材を選ぶという発想も、これからは必要とな
ってくると思います。
ドイツなどでは、パラジクロルベンゼンというのは禁止されているそ
うですし、建材で塩素系プラスティックは使わないようにという動きも
あるそうです。だいたい日本よりも環境の政策は、ヨーロッパ、特にス
ウェーデンとかドイツなどのほうが進んでいますから、そういう健康住
宅というのは、やがて日本でも採り入れられてくるのではないかと思い
ます。そういう場合に、廃棄物のことまで考えて建材の規制とかが始ま
ってくるんだと思います。
長谷川 どうもありがとうございました。それでは皆さんからの質問を
お受けいたします。野沢 いま先生から話があったことなんですが、先日ドイツの建材等に
ついての今の見解みたいなものをまとめた小冊子を見ますと、グラスウ
ールの断熱材までは一応……。今はこれしかないからしょうがないけれ
ども、あまり良いものとはしないというようなマークが付いているんで
す。それは無機系であるからということではなくて、あれは最終的にリ
サイクルができなくて、ゴミになったときの問題としては方がついてな
いという言い方だったと思うんです。
一方、われわれはどういう建物を「素敵な建物を設計できた」と心か
ら思うかというと、隙間風があって、寒くて不快であるというようなと
きには、建築家としてそうは思えないと思うし、半年たったらほとんど
消えるんだといっても、その半年の間に化学物質過敏症のスイッチが入
る人もいる。聞きかじりですが、10人に3人はその可能性があるという
ような話も聞きますし、考えざるをえない。
その最終的なトータル・エネルギーコストというのをどうやるか。最
後にインチキなゴミ捨て場に捨てて知らんぷりをするというわけにはた
ぶんいかないんでしょうし、われわれも納得できない。最終処分まで考
えた家をつくっていくというようなことを、ちょっとドンキホーテのよ
うですけど、何らかの格好で頭の隅に置いておかざるをえない。現実的
に対応しなければならないことではあるから、いちいち全部アイデアル
にその答えが出るものではないと思うのですが、われわれが「カッコイ
イ。素敵だな」と思う家というのを少しシフトさせて考える時期に来て
いるのかな、という気が大変するわけです。
一番最初に僕がコンクリート打ち放しの家を見たとき、カッコイイな
と思った時期があるような気がします。だけどある時期に、コンクリー
ト打ち放しの家の冬と夏の蓄熱量による非常に難しい問題を実際にそう
いう家に住んでいる人に聞いたり、ある体験的なことがあったりして、
コンクリート打ち放しの家がカッコよく見えなくなった。それは真ん中
に断熱層があって、ということでない場合ですが、カッコよく見えなく
なった。パラダイムがシフトしたというか、僕自身の価値観が少し変わ
ったというようなこともあったと思うんです。
あるいは、さっき先生にちょっと触れていただいた、ゴミになってか
らも含めて建築が加害者になってしまう部分、それをどうやったら減ら
せるか。極論すれば、幼稚な話ですが、建築をつくる数を減らす。つく
る数を減らすという言い方は、われわれはちょっとドキッとしますが、
長持ちする家をつくる。今は20年のものを40年、60年にすることができ
れば、そのときに仮に改修をしたとしても、その負荷というか、ゴミに
なる量が減少し、われわれが解くパズルは、われわれにとって納得ので
きる快適なものになっていくのではないか、ということを考えざるをえません。
大変良い機会ですので、会場の方で、具体的な疑問があるという方が
いらっしゃいましたら、手を上げて質問してください。

質問 いまご説明を聞きました揮発性有害ガスですが、これが室内で浮
遊しているときの特性というのがあるんでしょうか。たとえば下のほう
には溜りやすいとか、上のほうに溜りやすいとか、たとえば照明器具な
どの温かいものの周りには溜りやすいとか、そういう特性はあるんでしょうか。

花井 どういう状態かというと、揮発性のものはガス状ですから、部屋
の中であちこち測っても、それほど変わらないです。ただ、沸点によっ
て何気圧性とかいろいろ分けましたが、ある程度沸点が高くなると、埃
に付いてくるんです。このあたりの沸点ですと、ほとんどガス状です。
それでちょっと思い出すことは、大阪のエアコンのメーカーが、エア
コンのスイッチをつけると気分が悪くなるという人がいて、PL訴訟で
訴えられそうだ、と。そんなに危ない素材は使ってないけど、いっぺん
調べてほしいということで、空気清浄器の電極を送ってきたんです。そ
れを測ってみたら、ペルメトリンという殺虫剤がたくさん出てきたんで
す。なぜかというと、そこの家に住んでいる人が発疹が出て、ダニがい
るのではないかということでバルサンを焚いたそうなんです。焚いてい
るときは当然部屋にいないんですが、空気清浄器の電極というのは表面
積が広いですから、そこにべったりくっついているんです。時間がたつ
と、そのペルメトリンというのは、空気清浄器をつけると、空気は循環
しているから、揮発して出てきたわけです。そういうのはその空気清浄
器に吸着しているわけです。
ある程度沸点が高いものは粒子の形ですが、VOCとかはほとんどガ
ス状で、高い所と低い所でそんなには変わらないです。空気を高い所と
低い所で測っても、それほど変わりません。沸点の高いものは埃とか壁
なんかにも吸着していて、部屋の中で一度吸着したものがまた出てくるわけです。

質問 一つ教えたいただきたいんですが、化合物の中でもホルムアルデ
ヒドが比較的定常的に出てくるというお話でした。その理由として、先
ほど加水分解の影響もあるんじゃないかということでしたが、お勝手な
どに由来した加水分解の生成物と考えていいのか、もしくは材質自体の
加水分解と考えていいのかということなんです。
あと、加水分解だとすれば、湿度の多い部屋ではホルムアルデヒドの
発生量が多いとか、そのへんの差はどのようなものでしょうか。

花井 加水分解の話ですが、これが尿素で、これがホルムアルデヒドで
す。縮合というのは水が取れて化合物がずっとつながって高分子の化合
物に変わることを言いますが、水が取れて熱を加えればホルムアルデヒ
ドが固まるということですから、逆の反応が起こればまたホルムアルデ
ヒドが出てくるということが考えられます。ただ、それだったらば、数
年でなくなるということは……。樹脂というのは半永久的にあるわけで
すから。加水分解からホルムアルデヒドが発生していたらば、そんなに
は持続しないと思うんです。やはり中にかなり溶け込んでいて、合板の
表面が露出している場合は案外すぐ出るけれども、最近は壁紙とかをべ
ったり張っているから揮発しにくい。そして中のほうまで沁み込んでい
るから、ゆっくりと部屋の中に出てくるわけです。
加水分解も確かに考えられますけれども、それよりはやはり密閉した
のがじわじわと出てくると考えたほうが自然ではないかと思います。

質問 花井先生にお伺いしたいんですが、われわれは建築屋として住宅
の設計のときにベニヤを使うことが非常に多いんです。先ほどのお話で
は、接着剤が問題だ、と。その中でもF1といわれる一番低公害型のも
のは、だいぶよろしいんじゃないかというお話でしたが、それでもまだ
毒性が残っているんでしょうか。それとも大丈夫なんでしょうか。

花井 それは程度の問題によるわけですが、F 1というのはほとんど使
われてないとか……。
長谷川 いま使われている全体量の1.3 %ぐらいです。今はそれが非常
に売れているというか、引く手あまたというか、われわれが注文しても
手に入りませんね。「2000枚発注してくれれば、あるロットでつくるけ
ど、100 枚かそこらでは売れない」と、どこへ行っても断られました。
だから、わりと大量に使われる所は手に入るんだけど、少量使う所に回
ってこないというのは、困ったことだと思います。
花井 建築をされている方が需要として求めれば、生産側はいくらでも
……。技術的に見たら、そんなに難しい問題ではないですから。ただ、
そういうことを今まであまり言われてなかったから、つくっても売れな
ければつくらないでしょう。だから建築の方がたくさん需要を出してく
れれば、メーカーは競い合ってホルムアルデヒドの少ない合板を出して
くると思います。

質問 フェノールを使っていれば安全なのかどうか、疑問なんですが。

花井 フェノールも特有の匂いがします。クレゾールは消毒として使っ
ていますが、フェノールが部屋から出てきたという調査例は、今のとこ
ろはないです。

質問 今度は新たにフェノールの問題が出てくるのかなという気がしな
いでもないんですが……。
野沢 測定している建物にフェノールの合板がないということで、出て
ないのかもしれませんね。
花井 フェノールはフェノール特有の匂いがするから、匂いでわかるん
ですが、空気を採る袋で、テトラバッグというのがあるんですが、それ
に室内の空気を入れてもフェノールが出てくるんです。フェノールとい
うのも確かにこれから問題になってくることも考えられます。私のほう
は、ホルムアルデヒドよりもむしろ簡単に測定できますので、もし興味
があれば、横浜国大のほうに電話してください。空気を測定する袋を送
りますので、それで調べることができます。何か具体的に問題があった
ら、大学のほうに電話で相談してください。

質問 先ほどOMソーラーの住宅の中で、土台に防蟻剤を使ったケース
がNHKでも取り上げられたというお話でしたが、それについてOMソ
ーラーシステム自体というのは、土台に関してこれから防蟻剤をどうし
ていくかみたいなことは、対策としてやられているんでしょうか。

野沢 ちゃんと答えられるかどうかわかりませんけれども、違っていた
ら、だれかよく知っている人が答えてください。
当時は、たしか「土台等には防蟻処理をすること」となっていたと思
います。つまり土台に防蟻処理をしてない建築については、住宅金融公
庫の基準に合わない住宅として、融資はできない、ということが文面と
してあったんだと思います。
今日はOMソーラーシステムそのものの話とは違いますので簡単にし
ますが、OMソーラーシステムの開発側としては、OMソーラーシステ
ムは、土台を防蟻処理する必要はない、と。土台といわれているものは
縁の下の土台、一般的に考えられている基礎の土台とは全然意味が違っ
て、むしろ浮いている床の下までを含めて室内と考えている部分である
ということですから、防蟻処理はしないでいいんだということで過去も
いたし、それ以降もいたわけです。
ですけど、その文面とのジレンマというのがありまして、正直に文面
どおりに処理をして問題が起きたという事例があって、先ほどの北里大
学の先生の所にその問題が持ち込まれたということが過去にあったんだ
と思います。ですから今は防蟻処理はしない、する必要はない、と。つ
まり土台は乾燥している場所にあるし、室内側にあるということですか
ら、しないでいいということです。公庫の基準も、たぶん「しないでい
いものはいい」ということに書き換えられているんだろうというふうに
僕は理解しています。
私の知るかぎりでは、公庫のほうも、防蟻処理に対しては薬剤を
使うのはやめようという方向になっています。
長谷川 防蟻処理というのは二つありますよね。土台に塗る程度の処理
もあるし、それも良くはないんですが、業者さんが全面的に土まで含め
て防蟻処理をやっていますよね。あれはものすごい量の薬品が入れられ
て、長持ちするようにできていますから、長期にわたって害が出ている
ようですね。さっきも先生が、防蟻剤が非常にきついと言っておられま
したが、やっぱりそれがあるんじゃないでしょうか。
野沢 テレビコマーシャルをどんどんやったり、室内で焚き込んだりす
るあの手のものが大変問題だと思います。特に大企業の商品だと非常に
言いにくい話だろうと思うので、今日の話の中ではショックの度合いの
高い話だったなと思います。
一方、さっきの「どうするんだい」という話ですが、関西地方でのシ
ロアリ問題というのは、われわれが聞いているところでも非常に深刻な
問題であって、「それでは何もしないでもいいのか」と言えば、そうい
うわけにはちょっといかないんだということがあります。この湿度の高
い、夏の暑い日本で、木造住宅をさっき僕が言ったように60年も70年も
持つものにしたい、しかもエネルギー消費の少ないものにしたい、それ
でいてシロアリにも食べられないようなものにしたいということの答え
は、まだ本当には全部出ていない。何らかの格好でつじつま合わせをし
ながら答えを探していく、ということがいま行われているのかなと思います。
今の話を聞いていますと、竣工して6か月は、うれしくても家に入ら
ずに、窓を開けてしょっちゅう覗いて、しばらくは見ているだけ。そし
て6か月たったら入るということにすれば、建材の問題はだいぶ片づく
ようですが、大気という体積から見れば微量ではあるんですが、飛んで
行っちゃった大気のほうはどうするんだ、ということが残ってなくはな
いんだろうなということをちょっと思います。
それよりも畳の中に混ぜてある農薬の類ですね。どうも床から下とか
畳の中とか、そういう所に別の都合によって撒布されたり混入されてい
る毒薬のほうは、ちょっとただ事じゃないなという気がします。
半田 ある人から聞いたことがあるんですが、いま環境問題が非常に問
題になっています。地球というのは薄い皮膜といはいうもののかなり大
きなもので、いま努力をしないと、100 年後にかなりヤバクナルよ、だ
からいま真剣にやらなくちゃいけないんだ、という話なんです。
よく無農薬の問題とか食品に関してポストハーベストの問題とかいろ
いろ話が出ます。そういったものに関しては、われわれの人体は解毒作
用もありますし、ある程度丈夫なところもありますが、それでも10年後
の自分自身の体のことを考えていま努力しなくてはいけないというわけです。

それに対してこの室内汚染の問題は、私や花井先生の実態調査から見
ても明らかなように、もう新築住宅の大部分の家でかなり基準を超えて
います。半分とかいうことではなくて、2/3 とか4/5 というレベルの家
で基準を超えているんです。そういう状況にあるということをほとんど
の方がご存じないというところにかなり大きな問題があります。この問
題は、その先生に言わせると、「地球問題が100 年後の問題で、食物問
題が10年後の問題だとすれば、室内環境問題は1年後の問題なんだよ」
と。そのぐらい深刻なんです。
われわれが1日にどのぐらい食物を体内に入れるかというと、何十キ
ロというものを食べる人はいないわけです。ところがわれわれは、成人
で1日に15〜18立方メートルぐらい呼吸しているらしいんです。1立方
メートルの空気の重量は1kgあるわけです。水の1/1000ですから。とい
うことは、僕らは毎日17〜18kgぐらい肺に取り入れているわけです。し
かも肺とか鼻は粘膜でできていますので、非常に化学物質を取り込みや
すい。たとえばイヌの動物実験だと、95%は鼻から呼吸した段階で取り
込まれている。これはイヌだからかもしれませんが、そのくらい吸着率
がいいんだということです。
ですから、そういうことに関しては、食物問題よりもずっと深刻な問
題で、しかもいま野沢さんが言われた半年間の高濃度の間に被曝しちゃ
って過敏症になる人も、かなりいるはずなんです。中毒という問題では
けっしてないんですが、そういう意味では、われわれの常識から比べる
とごくごく微量なレベルでも、健康被害につながる可能性は非常に高い
ということです。ある程度こういう問題がありそうだということは何ら
かの形で感じているから、皆さん、こういう所に来ているわけですし、
知らないで何もしてないと逮捕されちゃう時代ですから、ぜひ何らかの
対策のために、われわれは明日からでもすぐ行動に移すべきではないか
と思います。
野沢 この手の話は、さっきもチラッと話が出たように、先進国型の国
家になったから起きたことだ、という言い方がされていたことがあった
と記憶しています。たとえば「ドイツとかアメリカでは、10年ぐらい前
から大騒ぎ。日本は10年遅れて先進国になった」という言い方もあるわ
けです。しかし、さっき申し上げましたように、ドイツとかアメリカで
新築住宅に住んでいる人はほとんどいないと言ってもいいぐらい、人口
当たりで見ると住宅建設戸数は少ないんです。
日本の新築比率は非常に高いんです。その非常に高い新築比率を習慣
にしちゃっているということがあります。ローンが終わると、「建て替
えようか」と。ちらっと聞いた話では、われわれはそれによってメシを
食っているということがあるので言いにくいんですが、日本人の生涯居
住費は生涯所得の30%を超えているそうです。家を建てるために生きて
いるのか、家を建てるために稼いでいるのか、という感じがしないでもないんです。
さっき半田さんとも話していたんですが、古い家に住んでいるほうが
身体にいいということは、どうも間違いはなさそうなんで、長持ちさせ
る。そうすればゴミも建築廃材も、その分減るわけです。われわれぐら
いのレベルで住宅をつくっている人間にとっては、そういう格好で建設
戸数が半減しても、われわれの仕事に反映するということではないだろ
うというふうに高を括って、そういう家づくりを一方ですることをわれ
われが納得することだというふうに考えたいなと、ぼんやりは思っているわけです。

質問 ここに来ている皆様はけっこうこういうことに関心があるかと思
いますが、同じ仕事をしている私の友達の中には、なかなか理解してく
れない者がまだまだ多いんです。住宅を設計する以上、すべてのことを
一応知ってなければいけないと思うんです。お客さんは主ですし、選ぶ
のはお客さんなんです。お客さんは、われわれをプロだと思っているわ
けです。すべてを説明して、提案する。選ぶのはお客さんだから、住宅
の室内汚染の問題も、設計に携わる人がもっともっと勉強して、提案し
ていかないと、お客さんはいつまでたってもわからない。
実は8年ぐらい前に私の自宅をつくりまして、お金がなかったもので
すから、ウチは設計と施工をやっているんですが、問屋さんに、ただで
いいようなものを持って来いといって、各メーカーの余ったビート板と
か寄せ木フロアとか、そういうものを寄せ集めて畳の下、押し入れの中
に使いました。
それで出たのが私の体の異常と、女房は今でも悩んでいますが、完全
に体をやられたんです。だから私はいま皆さんにこういうことを言っ
ているわけです。女房は、更年期障害かな、なんて言っていましたが。
やはり自分で化学物質汚染だということを知らないで新築の家に住ん
で、そういう症状が出ると、たとえば50前後だということになると、お
医者さんに行っても、かなりの人が更年期障害だと言われるんです。そ
ういうことになると、やはり私らはものすごい罪になるんじゃないかと
思いますね。
長谷川 今日ここに来ている皆さんはつくる側の方がかなり多いんじゃ
ないかと思うんですが、本当にいまおっしゃられたとおり、僕ら自身が
よほどよく知っていないと、実際にどうしていいかわからないというこ
とだと思います。
今回は、もう時間がなくなりましたので、このへんで終わらせていた
だきますが、このセミナーはずっと続けまして、次回は、そういう化学
物質は人間の体にとってどんなものなんだろうかというのを、いま言わ
れたような病状が出た方、大変苦しまれた方の実際の診断に当たったり
治療に当たったりしている医学の側の方に来ていただいて、お話を聞い
たらどうかなといま思っています。これはたぶん来年に入ってからにな
ると思いますが、またこのセミナーを開きますので、どうぞ来てくださ
い。
3回目は、ではどういう家をつくったらいいんだろうかというのを、
もうちょっと突っ込んで皆さんと考えたいと思います。こういう会があ
るたびに、ではどうすればいいんだろうという話がすぐ出るんですが、
なかなか急には結論が出ない。非常に大きな、ほとんど文明の問題みた
いなものですから、一晩で解決が出るというような話ではないと思いま
すが、そういうことを目指して3回目は皆さんとまたお話し合いをした
いと思います。
花井先生、どうもありがとうございました。半田さんも、どうもあり
がとうございました。

野沢 一つだけ宣伝をさせていただきます。私が所属している日本建築
家協会のほうで続けているシンポジウムの3回目と4回目が間近に近付
いています。3回目は11月1日ですからもう何日もありませんが、国立
公衆衛生院建築衛生学部部長という職責の池田コウイチという方に、この問
題についてJIAのほうで話を聞くということです。
次は11月22日の金曜日という覚えやすい日ですが、この日は岡谷さん
というベターリビング住宅部品PLセンター室長という方で、建材その
ものに関わっていらっしゃる研究者の方に話を聞きます。
これはOMフォーラムではございませんので、ここのシリーズとは別
のものですが、まったく同じ問題を別の切り口でというシンポジウムで
すので、もしも時間があって、他の話も聞いてみたいという方は、ぜひ
ご参加くださればと思います。
今日はどうもありがとうございました。


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